研究・論文

2017年3月26日 ベニイロクチキムシタケ 二次代謝産物のヒト癌細胞に対する抗腫瘍効果

2017年(平29)3月24日〜27日・日本薬学会第137年会(仙台)

【目的】
現在行われているがん治療法において、抗がん剤はがん細胞を攻撃すると共に、少なからず正常細胞も攻撃するという欠点を持つ。すなわち、抗がん剤の持つ非特異的な細胞毒性ががん患者に重篤な副作用をもたらすことになる。抗がん剤開発の観点から、副作用の軽減化を図るための一つの考え方は、細胞特異性の高い新規リード化合物を見つけることである。我々は、真菌類でほとんど研究が進んでいないユニークなキノコCordyceps属、Ophiocordyceps属、及びIsaria属に着目した。Cordyceps属菌由来の多くの成分は、古来より民間薬あるいは薬膳料理などの機能的食品としての効用だけではなく、未知成分が様々な薬理作用を示す可能性が考えられ、多彩な機能を持つものと考えられているが、自然界では発生が希少なため絶対的な供給量が少ないことから、これらの薬理学的有効成分について検討されていないものも多い。我々は、安定した資源供給および資源保護を目的とした人口培養に関する研究を行うとともに、いくつかの冬虫夏草について大量培養することに成功した。今回は、ヒトがん細胞特異性が認められた、コブガタアリタケ、ベニイロクチキムシタケFDを有機溶媒で分画し、がん細胞に対する効果の検討をした。

【結果および考察】
① 人工培養することに成功した13種の冬虫夏草の抗腫瘍スクリーニングの結果、細胞特異的抗腫瘍活性を有する5種の冬虫夏草を見出した。

② サナギタケの代謝液は、ほとんど全ての腫瘍細胞の増殖を有意に抑制したが、細胞特異性は認められなかった。

③ ハナイモムシタケをはじめとする6種は、低濃度では殆ど効果が認められなかった。

④ ベニイロクチキムシタケは、低い濃度範囲において、U937濃度及びMCF7細胞、に対して効果的かつ特異的に増殖抑制効果を示した。

⑤ ベニイロクチキムシタケ培養上清のCHCl3画分およびEtOAc画分は、いずれも粗画分よりも低濃度でヒト白血病U937細胞ヒト乳がんMCF細胞に対し、強い細胞増殖抑制効果を示し、細胞死の形態はアポトーシスであった。

⑥ ベニイロクチキムシタケのU937細胞に対するアポトーシス誘導では、ミトコンドリアの膜電位が低下し、caspase-3が活性化することが明らかとなった。

以上の結果から、冬虫夏草はその種類により代謝液に含まれる活性成分がそれぞれ異なり、免疫賦活作用も併せ持つことから副作用が極めて穏やかな新しい抗がん剤開発に役立つリード化合物と成り得る可能性があると考えられる。

N.M.I.
聞く