冬虫夏草とは

生きた昆虫に寄生する菌・冬虫夏草

冬虫夏草が日本に伝来するまで

 漢方の故郷である中国では、殷(いん)の時代より前、紀元前2000年頃から冬虫夏草の存在が知られていました。 秦(しん)の始皇帝(紀元前259〜紀元前210)や楊貴妃(紀元後719〜756)も不老長寿の秘薬として冬虫夏草を好んだといいます。

  本来、冬虫夏草とは、コウモリガの幼虫に寄生したものをいいます。(近年では、コウモリガ以外の様々な宿主に寄生したものも総称して冬虫夏草と呼んでいます)コウモリガはチベットやネパール、ヒマラヤ山系、四川省などの4000メートル級の高山地帯にしか棲息しない昆虫で、そのため冬虫夏草は、庶民には手の届かない希少で高価ものとされてきました。(生息地域を取材した紀行文はこちらです)現代になってもこの状況はさほど変わってはいません。

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チベット高原に生息する冬虫夏草

冬虫夏草は、不老長寿ばかりでなく滋養強壮として、また肺結核の治療にも長い間使われてきました。『増訂本草備要』には『肺や腎に力を与えてくれる』と記されています。

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コウモリガの幼虫を養分として育つ

 このように中国では古くから知られていた冬虫夏草ですが、日本での歴史は浅く、文献に登場するのは1723年、青木昆陽著「続昆陽漫録補」で紹介されたのが最初とされています。 その後、冬虫夏草といえば中国からの輸入品。 しかも、滋養強壮のための漢方薬と考えられた時代が長く続きました。

僅かながら、日本にも冬虫夏草の仲間が自生しているのが分かったのは、冬虫夏草の歴史全体から見れば、ごく最近といってよいでしょう。

冬虫夏草のまだ知られていない働きを探る

 昆虫に寄生する動物性キノコという広い意味での冬虫夏草は、日本国内で500種類以上発見されています。N.M.I. 自然薬食微生物研究所は、世界的にみてもまだ数少ない冬虫夏草の研究機関です。 1967年から、この不思議な生態を持つキノコの研究を続けています。人工培養を成功させたことによって研究が飛躍的に進みました。

当時は冬虫夏草の科学的研究者はほぼ皆無に等しい状況でしたが、私たちが研究を開始して半世紀以上経った今、冬虫夏草という名前もよく知られるようになり、多くの大学でもその成分や働きについてさまざまな研究がなされています。

冬虫夏草は特定の虫を生きたまま乗っ取るキノコ

 以下、書籍『日本冬虫夏草があなたのガンを消すかもしれない』広瀬薫監修 自然薬食微生物研究所著 より抜粋

 さて、中国の冬虫夏草、および日本冬虫夏草は、生きた虫の体に寄生して生えるキノコです。 また、虫なら何でもいいというわけでもありません。

中国の冬虫夏草はコウモリガにしか寄生しませんし、日本冬虫夏草もセミにしか寄生しないセミタケ、ハチにしか寄生しないハチタケといったように、菌の種類によって寄生する昆虫の種類は決まっています。

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ハチに寄生した日本の冬虫夏草
ハチタケ

昆虫が食べ物を取り込む口や、呼吸する気門といった弱い部分から菌は入り込み、体液の流れに沿って移動しながら、脂肪組織や蛋白質を分解して成長、やがて昆虫の心臓が止まり絶命した後で身体中に細菌を張り巡らせます。次にじゅう菌糸体が堅く成熟し、主に夏に昆虫の外皮の弱い部分を突き破って、子実体と呼ばれるキノコの部分を伸ばします。

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アリに寄生した日本の冬虫夏草
コブガタアリタケ

後に実物をメスで切り裂いて観察すると、冬虫夏草と化した昆虫の中には完全に菌に占拠され、内臓などの器官は白い菌糸体に完全に置き換わっていることが分かりました。生きながらキノコに身体を乗っ取られ死に至る。 昆虫としては、これほど恐ろしい存在は他にないでしょう。 しかし、この奇妙な性質が、ガン撃退に役立つと考えられています。

N.M.I.
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