研究・論文

2013年3月 日本冬虫夏草二次代謝物のヒト腫瘍細胞に対する抑制効果

2013(平25)3月27日〜30日・日本薬学会第133年会(横浜)

【目的】
冬虫夏草(Cordyceps属)菌由来の多くの成分は、古来より民間薬あるいは薬膳料理などの機能的食品としての効用だけではなく、未知成分が様々な薬理作用を示す可能性が考えられ、多彩な機能を持つものと考えられているが、自然界では発生が希少なため絶対的な供給量が少ないことから、これらの薬理学的有効成分について検討されていないものも多い。我々は、安定した資源供給および資源保護を目的とした人工培養に関する研究を行うとともに、いくつかの冬虫夏草について大量培養することに成功した。40種の冬虫夏草について、ヒト癌細胞に対する抗腫瘍活性の観点からスクリーニングを行い、活性の強かったベニイロクチキムシタケの活性成分を特定し、作用機構を明らかにすることを目的とした。本菌の人工培養の培養上清を有機溶媒により抽出分画した。

【結果および考察】
① 人工培養することに成功した40種の冬虫夏草について抗腫瘍活性のスクリーニングをした結果、乳癌細胞に顕著な抗腫瘍活性を有する10種の冬虫夏草を見出した。その中でもベニイロクチキムシタケFDの抗腫瘍活性は顕著であった。

② ベニイロクチキムシタケFDのクロロホルム画分および酢酸エチル画分は、いずれもFDよりも低濃度でヒト白血病U937細胞及びヒト乳癌MCF7細胞に対し、強い細胞増殖抑制効果を示し、細胞死の形態はアポトーシスであった。また、U937細胞に対するアポトーシス誘導には、caspase-3が関与することが明らかとなった。

③ ベニイロクチキムシタケFDの経口及び静脈内投与群でCD4及びCD8陽性細胞の増加が認められ免疫能の増強が認められた。

以上の結果から、ベニイロクチキムシタケのクロロホルム画分に、直接的に癌細胞の増殖抑制効果を持つ物質が存在することが明らかとなり、テルペノイドやフラボノイド等の疎水性低分子化合物が活性本体である可能性が示唆される。また、ベニイロクチキムシタケFD投与によりT細胞活性化作用が認められたことから、FDには抗癌活性を持つ化合物の他に免疫賦活作用を持つ化合物も含まれることが示唆される。さらに急性、亜急性毒性、慢性毒性も認められない(data not shown)ことから副作用の少ない治療薬として期待できる。

※経口および静脈内投与はマウスを使った実験結果であり、人に対しても全く同じということではありません。より人に近い哺乳類の仲間を使って生理活性を見ています。

N.M.I.
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