研究・論文

2008年3月 ミジンイモムシタケ 人工培養におけるコラーゲン様ゲル塊の産生について

2008(平20)3月26日〜28日・日本薬学会第128年会(横浜)

【目的】
ミジンイモムシタケCordyceps sp.nov.は、特に末期癌の転移、あるいは進行に効果があるとされ、本邦あるいはアジア諸国において癌の治療や免疫抑制薬として注目されている冬虫夏草属菌の一種である。本会第127年会において、我々はCordyceps sp.nov.抽出エキスのラット肺マトリックスメタロプロテアーゼ阻害作用を報告したが、その中で人工培養液中に、粘着性で弾力があり、安定なコラーゲン様ゲル塊が堆積沈殿することを認めた。そこで、そのゲル塊の組成と利用について検討した。

【方法】
実験方法:ミジンイモムシタケは山形県羽黒山周辺より採取された菌体を人工培養したものである。培養により得られたコラーゲン様ゲル塊は凍結乾燥後、 50mM Tris-HC1にて試料溶液とし、トリプシンあるいはコラゲナーゼにて処理した後、下記のSDS-PAGE法では10%酢酸で溶解し、50mM Tris-HC1にて試料溶液とした試料を用い、次のマウス経口投与では、凍結乾燥粉末を十分に水に懸濁させたものを用いた。 SDS-PAGE:コラーゲン様ゲル塊試料溶液をトリプシン(37℃、5min、Nacalai tesque)、あるいはコラゲナーゼ(37℃、1hr、16.0875unit、collagenaseⅣ、Sigma-Aldrich)にて処理した後、10%SDS-PAGEに附し、タンパク質はCBB染色あるいはゲル−ネガティブ染色にて、糖タンパク質はPeriodicacid- Schiff(PAS)染色により確認した。また、ゲル塊の凍結薄切片(5μm)をコラーゲン・ステインキット(コラーゲン技術研修会)にてコラーゲンと他のタンパク質を分別染色し、その存在様式を観察した。

実験動物:9週齢ddY系雄性マウス

薬物投与:エーテル吸入麻酔下で背部皮下に無菌コットンペレット(20.0±2.0mg)を埋め込んだ。コットンペレットは錠剤型に成型し、全て同重量、同形状を維持した。術後1h後からCordyceps sp.nov.コラーゲン様ゲル塊凍結乾燥試料を水に懸濁させ、給水瓶より摂取させた。試料溶液は 24hまでの使用とし毎日調整した。投与量はその飲水量から換算し、10mg/kg/dayと100mg/kg/dayになるように試料溶液を調整した。術後10日目にエーテル麻酔下でコットンペレット埋め込み周辺組織を得て試料とした。試料採取の際の写真をFig.3-5に示す。試料はその湿重量及び凍結乾燥後の乾燥重量、及び組織凍結切片(30あるいは15μm)のMayer's-Hematoxylin-EosinY染色による組織形態学的観察を行い比較した。

■Fig.1:Cordyceps sp.nov.コラーゲン様ゲル塊(Cs.-gel)を凍結薄切し(5μm)、コラーゲンと他のタンパク質の分別染色した結果、赤色に染色されたコラーゲン様繊維タンパク質が認められた。

■Fig.2:Cs.-gel溶液をトリプシンあるいはコラゲナーゼにて処理した後、10%SDS-PAGEに附し、タンパク質をゲル-ネガティブ染色で、糖タンパク質をPAS染色により確認した。その結果コラーゲンにおける両酵素処理のパターンと異なる泳動パターンが得られ、コラーゲン類似の糖タンパク質がその構成要素として重要であることが示唆された。

■Fig.3-5:背部皮下に埋め込んだコットンペレットの10日後の観察である。
・Fig.3:対照群では埋め込んだコットンペレットにはほとんど変化は認められなかった。
・Fig.4-A:Cs.-gel(10mg/kg.p.o.)マウスではペレット周囲に血管新生を認めたマウスも存在した。
・Fig.4-B:Cs.-gel(100mg/kg.p.o.)マウスにおける、ペレットの皮膚組織への癒着。
・Fig.5:Cs.-gel(100mg/kg.p.o.)マウスにおいて認められた、ペレットを包囲する嚢状組織塊の存在。

■Fig.6-8:上記結果の組織像の詳細な観察である。
・Fig.6:対照群では埋め込んだペレット外周での組織新生はわずかであった。
・Fig.7-8:・Cs.-gel(100mg/kg.p.o.)マウスではペレット外殻に肥厚した組織の新生を認め、さらにその
 外周と皮膚真皮網状層との間には壊死した組織細胞群を認めた。

■Fig.9:背部皮下に埋め込んだコットンペレットの10日後の重量変化である。湿重量及び乾燥重量共にCs.-gel投与群では対照群に比較し有意に増加していた。

【まとめ】
Cordyceps sp.nov.コラーゲン様ゲル塊(Cs-gel)にはコラーゲン様繊維蛋白質が認められ、その溶液をトリプシンあるいはコラゲナーゼにて処理した結果、コラーゲン類似の糖蛋白質がその構成要素として重要であることが示唆された。 ◎マウス背部皮下にコットンペレットを埋め込み、10日間Cs-gelを摂取させたマウスでは、ペレットの皮膚組織への癒着、及びペレットを包囲する嚢状組織塊の存在を認めた。このとき、対照群では埋め込んだペレット外周での組織新生はわずかであったが、Cs-gel 投与群ではペレット外殻に肥厚した組織の新生を認め、さらにその外周と皮膚真皮網状層との間には壊死した組織細胞群を認めた。

以上のことから...

Cordyceps sp.nov.コラーゲン様ゲル塊の摂取は、異物や腫瘍、あるいは悪性腫瘍のような浸潤性増殖細胞の増殖に対する除去作用を有する可能性があることが推察された。詳細は今後さらに検討する予定である。

※以上はマウスを使った実験結果であり、人に対しても全く同じということではありません。より人に近い哺乳類の仲間を使って生理活性を見ています。

N.M.I.
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