研究・論文

2007年3月 冬虫夏草属菌の一種、ミジンイモムシタケのラット肺マトリックスメタロプロテアーゼ阻害作用

2007年(平19)3月28日〜30日・日本薬学会第127年会(富山)

【目的】 冬虫夏草属菌はバッカクキン科Clavicipitaceaeのノムシタケ属Cordycepsに属する子嚢菌類の総称であり、昆虫あるいはクモ類、地下生菌(土団子菌)に寄生して世代を繰り返す。現在、本邦あるいはアジア諸国において昆虫寄生の子嚢菌類が癌の治療薬として注目され、特に末期癌の転移あるいは進行に効果があるとされる。近年、癌の転移におけるプロテアーゼ(MMP)は癌の浸潤・転移・虚血性脳及び心疾患、炎症、あるいは血管新生に関与することが知られている。そこで、ミジンイモムシタケCordyceps sp.のラット肺組織MMP活性に対する影響を検討した。

【実験方法】 ミジンイモムシタケエキスの調製と抽出:ミジンイモムシタケ菌糸体を75%メタノールで冷浸し、綿栓濾過後に濃縮しエキスを得た。得られたエキスは水に溶解しクロロホルム、酢酸エチル及びn-プタノールにて分配しそれぞれのエキスを得た。SDS-PAGEによるMMP阻害活性を指標として、 Sephadex LH-20、Wakogal C-200カラムコロマトグラフィー及びPTLCにて精製を繰り返し活性画分を検索した。以上をChart.1に示す。

実験動物:7週齢Wistar系雄性ラット肺組織ホモジネート

MMP酵素源:肺ホモジネート(50mM Tris-HCI,pH 7.5 9000×g上清画分)をp-aminophenylmercuric acetate(APMA,0.5mM)で処理しMMPを活性化してMMP酵素源とした。

MMP阻害活性の測定(以下の実験は4回繰り返し行いその平均値とした):SDS-PAGEゼラチン分解活性:ゼラチン(1.0mg/ml)を基質として各披験物を添加し、37℃、18hインキュベーション後にSDS-PAGEに附しCBB染色により蛋白質を確認した。

ゼラチンゲルザイモグラフィー:活性化したMMPを非還元下で1.0mg/mlのゼラチン含有ゲルで泳動した後に37℃、18h、NaCl及びCaCl2を含む緩衝液中でインキュベーションしCBBによりゼラチン消化活性を可視化した。定量的画像解析:CBB染色後のゲルはEPSON ES-2200で取り込み、Image Gauge v4.0(Fuji Photo.)により定量的解析を行って比較した。

【結果・考察】 Fig.1 0.5mM APMAにより活性化されたMMP群によるゼラチン分解活性のSDS-PAGEによる測定の結果及びゼラチンゲルザイモグラフィーの結果を示す。活性化されたMMP群はEDTA(10mM)でその作用に阻害されること、さらに1.10-phenanthroline(1mM)でEDTA同様に阻害が認められるが、セリンフロテアーゼ阻害剤のphenylmethyl sulfonyl fluoride(PMSF,1mM)では阻害が認められないこと、及びカゼインザイモグラフィーの結果(data not shown)から本活性はMMPsに由来することを確認した。以下定量的画像解析法により得た結果によりミジンイモムシタケのMMP阻害作用とその活性成分を検討した。

Table 1及びFig.2 ミジンイモムシタケ75%MeOH抽出エキスでは6.4mg/mlでEDTA(10mM)と同等のゼラチン分解阻害活性を認めた。分画したエキスはその収率から同様にゼラチン分解阻害活性を検討したところ、n-BuOH画分の活性が最も強く、その阻害作用は濃度依存的(IC50:420μg/ml)であった。

Fig.3 次にSephadex LH-20カラムクロマトグラフィー(aq-MeOH)によるn-BuOH画分の分画を進めたところ、F2画分(926.1mg)を得た。この画分によるゼラチン分解阻害活性は濃度依存的でありIC50値は0.9μg/mlであった。さらにこの画分の MeOH可溶性画分はWakogel C-200(CHCl3:MeOH=1:4)及び再結晶により精製された化合物Aと化合物Bが得られた。これらのMMP阻害作用をゼラチンゲルザイモグラフィー法により検討した結果、活性型MMP-2 に対する阻害作用を認めた。しかし化合物A及び化合物B以外の阻害物質の存在も推察されたことから、ミジンイモムシタケのMMP阻害作用成分の特定をさらに進める必要がある。今後化合物A及び化合物Bの構造決定と他の活性成分の検索あるいはMMP-2阻害作用の機序等の詳細についてさらに検討を行う。

【まとめ】
ミジンイモムシタケCordyceps sp. はマトリックスメタロプロテアーゼ阻害作用を示すことから、癌の浸潤・転移、虚血性脳及び心疾患、炎症、あるいは血管新生が関与する疾患に対して有効であると可能性が示唆された。

※以上はラットを使った実験結果であり、人に対しても全く同じということではありません。より人に近い哺乳類の仲間を使って生理活性を見ています。

N.M.I.
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