紀行・分類図鑑
冬虫夏草 カメムシタケ
カメムシタケ(中国名:椿象虫草)
Cordyceps nutans Pat.
発生地:山形県・釜渕
採集年月日:Aug.15,2003
異翅亜目Heteroptera、カメムシ科Pentatomidaeの成虫に寄生するノムシタケ属(=冬虫夏草属)の子嚢菌で、カメムシの胸部腹板からミミカキ型、綿棒状の子実体carpiumを発生させるのが特徴である。
本菌はアオクチブトカメムシDinorhyncuhsdybowskyi Jakovievの成虫に感染し、死に至らしめた最も典型的な昆虫寄生菌の一種である。
カメムシの体長8〜22mm、地上部の子実体は単一は双生、本菌は長さ7.3cmになる。柄は黒色、弾力性ある針金状で、太さ0.4-0.8mm、頭部 に鮮やかな朱橙色の結実部をつくる。結実部の大きさ4-7×1-2mm、繊維肉質で、紡錘形は円柱形、老熟すると橙紅色となる結実部が折れ傾く。
子嚢殻peritheciumは斜埋生で結実部表面に粒点状に密布する。長頸瓶形で頸部は屈曲し、大きさ530-1000×300-570μm。子嚢 ascusは細長い糸状で300-460×7-8μm、子嚢の頭部は径5-6μm。2次胞子sec-sporeは6.5-10×1.4-1.6μm。
深山渓谷の広葉樹、針葉樹の混交樹林帯に発生する。日本、ニューギニア、熱帯各地に分布する。
N.M.I.による人工培養成功。
〔追記〕カメムシタケ子実体頭部の子座Stromaは老熟すると、首がうなだれる特性があるのでラテン語のnutansと命名されている。山野の探索に疲れ果て、鬱蒼たる樹林帯の木陰に色鮮やかなカメムシタケの姿を初めて発見した時の喜びと興奮は忘れがたい体験であり、感動に満ちた一日となった。
感染症 VOL.37 No.4より