紀行・分類図鑑

冬虫夏草 ツブノセミタケ

冬虫夏草 ツブノセミタケ.jpg

ツブノセミタケ
Cordyceps prolifica Y.Kobayashi

発生地:山形県・釜渕
採集年月日:July.30,1976

同翅亜目Homoptera、セミ科Cicadidaeの幼虫に寄 生する虫草で、本種はヒグラシTanna japonensis Distanの幼虫に寄生したものである。

同翅亜目のセミ科昆虫に寄生する虫草菌は鱗翅目以上に大型で、宿主である昆虫と寄生菌の子実体であるキノコが一体となり、美しい造形美を表現する虫草菌は他にない。

代表的なものに先に表紙で紹介したセミの幼虫に寄生するオオセミタケCordyceps heteropoda Y.Kobayashiが挙げられる。一般に虫草採集の醍醐味は、地中の昆虫を掘り当てる時の興味津々たる心境にある。ホストである地中のセミが深いほど 柄が細くなり、老朽とともに切れやすく、掘り出すのに苦労する。切断すると菌核となっている地中の昆虫を探し出すことは不可能に近い。

虫草は冬には地中にあって虫として活動し、夏には草(キノコ)に変身して地上に姿を現す。

古代中国の神仙思想において、天変地異の自然現象に対する畏敬の念の中に、虫草の風変わりな変身にも摩訶不思議な怪奇現象として捉えたに違いない。

本種は子実体の長さ35cmに及び、樹齢50年以上の杉とコナラの混交林中で、約2時間かけて採集された。

子実体storomataは針型状でセミの頭部、胸部より単立に発生し、まれに枝分かれ状に越年の子実体が枯れ残る。地上部は弾力性ある肉質で、頭部はときに偏平、黄褐色でツブタケ型に裸生の子嚢殻peritheciaを不規則に密布する。

地上部の長さ1.5〜3.5cm、地下部を含めて柄の長さ5.0〜35cm、基部は径1.5mm、褐色の弾力性ある繊維様菌糸体からなる。

子嚢殻は卵形または楕円形、550-580×300-310μで淡褐色、子嚢胞子ascus sporeは細長い糸状で400×5-6μ。二次胞子は1.5×1μ。

日本の北海道から最南端の西表島にいたる全土の山地林内に発生するがやや稀である。熱帯雨林のニューギニアにも発生の記録がある。

N.M.I.による人工培養成功。

感染症 VOL.30 No.3より

N.M.I.
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