紀行・分類図鑑

冬虫夏草 カメムシタケ(分生胞子型)

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カメムシタケ(分生胞子型)
Isaria sp.

発生地:山形県・釜渕
採集年月日:Jun.29,1992

異翅亜目HeteropteraのアオクチブトカメムシDinorhyncuhsdybowskyi Jakovievの成虫に寄生する虫草菌で宿主の体長8〜22mm、地上部の子実体の高さ11cmになる。頂部の結実部には不完全型の分生胞子により世代 を繰り返すイザリアIsaria型の胞子が密布している。

カメムシタケCordyceps nutans Pat.中国名は椿象虫草といわれ、冬虫夏草とは区別され呼ばれている。

カメムシに寄生する虫草菌は子嚢殻peritheciumを有するコルジセップスCordyceps型の子嚢胞子ascosporeで世代を繰り返すの が一般的であり、結実部は鮮紅色で美しく、虫草菌の基本種とされている。本種のような分生胞子の不完全型は自然界では珍しい。

イザリアの他、カメムシに寄生する不完全型の虫草菌にはヒルスウテラHirsutella、 スチルベラStilbellaなどがあり、エダウチカメムシタケは前者の不完全型である。また本種については二次寄生菌 paecilomyces(分生胞子型)であるという説もある。

本種の子実体はミミカキ型、綿棒を思わせる。カ メムシ虫体の胸部から発生し、頂部の結実部は長楕円形、柄は基部から黒色線形で、上部は淡黄色でやや太い部分からなり、やや硬く繊維肉質である。

野外では雑木林など里山に近い森林帯で発見される虫草菌では、多種多様の空中雑菌や土壌菌と共生、またはコンタミしている場合が多く、人工的な純粋培養 は困難を極める。2004年、北海道大学農学部の佐々木史先生らは、30%過酸化水素に浸して殺菌、筆者らは精製水で洗浄後、乾燥してから殺菌灯を被照さ せて人工培養に供し、成功させた。

N.M.I.による人工培養成功。

1970年、虫草菌の人工培養に初めて試みた記念すべき菌種はカメムシタケC.nutans Pat.であった。

感染症 VOL.35 No.4より

N.M.I.
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