紀行・分類図鑑

冬虫夏草 エゾコガネムシタケ

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エゾコガネムシタケ
Cordyceps brongniartii 別名:マヤサンエツキムシタケ

発生地:北海道・恵庭
採集年月日:Aug.28,2003

鞘翅目Coleoptera、コガネムシ科Scarabaeidaeの 幼虫に寄生する地中生の虫草菌で、幼虫の頭部、胸の背部より子実体が発生し、途中1〜3本に枝分かれする。

鞘翅目の幼虫に寄生する本種に類似の虫草菌には、山形県の摩耶山で発見されたマヤサンエツキムシタケCordyceps sp.が知られている。

両者の相違は、子嚢殻peritheciumが本種では埋生型であるのに対して、マヤサンエツキムシタケは半埋生型であり、子嚢ascusの形態も異に する。

鞘翅目の昆虫に寄生する虫草菌は、鱗翅目の昆虫に寄生する虫草菌と同様に最も世帯数の多い虫草菌である。なかでもコガネムシの幼虫に寄生した朽木生型の コガネムシタンポタケC.neovolkianaは鞘翅目虫草菌の代表の一つとされており、本種についても宿主と子実体との構成におい て、鞘翅目の地中生型では虫草菌の典型的な形を現している。

子実体stromataは棍棒状、地上部は高さ4〜7cm、太さは3〜5mmになり、頂部の結実部には淡黄色、球形の子嚢殻を埋生する。柄は弾力性ある肉 質で白色。地上部は灰白色を呈する。

子嚢殻の大きさは390-400×350-400μm。子嚢の幅3.8μm。子嚢殻の口縁は淡黄色の円形で結実部に密布する。

日本固有種で現在では北海道のみに発生する。

N.M.I.による人工培養成功。

人工の寒天培地上に子嚢果のある子実体を発生させ、追培養を継続して いる。

〔追記〕北海道恵庭地域の山稜はトドマツ林の二次林の人工林に恵まれ、20〜30年生のトドマツ林の林床にはトドマツの枯れ葉が堆積、冬の寒さに耐える保湿効果でコガネムシが産卵、幼虫が越冬できる適正な温度と湿度が保たれているらしい。

トドマツの枯葉は5〜8cmのマット状に堆積し、昆虫の生息に適した環境は、本土では虫草菌の発生環境としては考えられない生態系であり、新しい知見で あった。

感染症 VOL.34 No.2より

N.M.I.
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