紀行・分類図鑑

冬虫夏草 マヤサンエツキムシタケ

マヤサンエツキムシタケ.jpg

マヤサンエツキムシタケ
Cordyceps brongniartii

発生地:山形県・摩耶山
採集年月日:Aug.2,1986

鞘翅目Coleoptera、コガネムシ科Scarabaeidaeの 幼虫に寄生する虫草で、本種はスギやヒノキなどの針葉樹を食餌とするスジコガネの幼虫に寄生した虫草菌である。

鞘翅目の昆虫に寄生する虫草菌は鱗翅目以上に多くの種類、世帯を有している虫草菌群である。代表的なものに、先に表紙で紹介したコガネムシの幼虫に寄生 するコガネムシタンポタケCordyceps neovolkiana Kobayasiがあり、他にコメツキ科の幼虫、カミキリムシ科、オサムシ科の幼虫や成虫に寄生する各種の虫草菌を有している。

本種は1986年の夏、山形県の秘境とされ、信仰の山である摩耶山(1,020m)の麓で初めて発見された虫草菌で、摩耶山の地名に因んでマヤサンエツ キムシタケと命名された。

登山道の入口には樹齢100年を越す杉林が連なり、鬱蒼とした茂みにはミドリ濃い玉虫色のコガネムシが木洩日に映える。薄暗い山道の下には水飛沫が立ち のぼる渓流が合流している。殖生相はヤマトリカブト、タニウツギ、トチノキ、サワグルミ、ミズナラ、ホウノキ、ムシカリ、サワシバなどが繁茂している。

子実体stromataは棍棒状、長さ40-65mm、地上部は30-55mm、頭部の子嚢殻部は8-11mm、柄の太さ2.0-1.7mm、基部はやや 細くなる。幼虫の大きさは30×5-7mmである。子実体は淡黄色で頭部はやや茶褐色を呈する。

子嚢殻peritheciaは半裸生型、卵球形で大きさ400-430×200-250μ、子嚢ascusの幅3.8μ、子嚢胞子ascus sporeは冊状形の2次胞子sec.ascospores 2.0-2.5×0.3μとなり空中に飛散させる。

本種の地上部の子実体はイザリア型との二双生で弾力性があり、地下部は徐々に細まり茶褐色に変わる。同一の宿主から完全型と不完全なイザリア型の子実体 が同時に発生している。イザリア型はマヤサンエツキムシタケの異形と思われる。

N.M.I.による人工培養成功。

1998年8月、12年振りに同じ場所を訪れた。ここでも森林の伐採が進み、明るい太陽の下に目的とするマヤサンエツキムシタケの姿は無かった。

感染症 VOL.30 No.2より

N.M.I.
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