紀行・分類図鑑

冬虫夏草 ヤンマタケ

ヤンマタケ.jpg

ヤンマタケ
Hymenostilbe Odonatae Kobayashi

発生地:山形県・釜渕
採集年月日:Aug.28,1977

トンボ目Odonata、トンボ科Libelluridae、また はヤンマ科Aeschnidaeの成虫に寄生する不完全型の虫草菌である。

不完全型の虫草菌には属特異性があり、鱗翅目の昆虫に寄生するイザリアIsaria型、 主にクモに寄生するギベルラGibellula型、カメムシ寄生のHirsutella型、トンボ、スズメガ、ハエ に寄生するTilachlidiopsisなど十数種に及ぶ諸属がある。

自然界の昆虫に寄生する菌類は、一般に完全世代である子嚢菌類Ascomycetesが主流をなしている。これは麦角菌Claviceps purpureaと同じく子嚢菌で、子嚢ascisを有しているのが特徴であり、子嚢胞子asco-sporeを空中に飛散させて自分たちの世 代を繰り返している。

不完全世代の昆虫寄生の菌類では、主に分生胞子conidio-sporeの形で自分たちの世代を繰り返すのが一般的である。

発見当初、ヤンマ科のトンボに寄生した虫草でヤンマタケの名が与えられた。

結節部より不完全Hymenostilbe型の子実体を発生させる。柄の大きさ2.5〜 6.0mm。硬い肉質で淡橙白色、分生胞子の大きさ2.50.5×1.0μ。

気生型の本菌の特徴として、雪深い北国にては圧雪や、風雪のため止まり木の枝葉が虫体と共に落下崩壊し、完全世代としての子嚢胞子を造れず、不完全世代の 分生胞子として世代を繰り返すものと思われる。

自然界では空中に飛翔するトンボに分生胞子として感染し、生きているトンボを殺傷、その生体の組織組成である昆虫蛋白を栄養源として自分たちの子孫を残 すために世代を繰り返している。

本写真はヤンマタケ菌に感染し、運動神経が侵されてカヤツリグサ科の葉に着床し、死に絶えた姿である。

近年、茨城県筑波山において菌類写真家の伊沢正名氏により、長年待望された子嚢胞子果peritheciumのある完全世代のヤンマタケを追培養で成功 させた。

N.M.I.による人工培養成功。

感染症 VOL.29 No.2より

N.M.I.
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