紀行・分類図鑑

冬虫夏草 タンポヤンマタケ

タンポヤンマタケ.jpg

タンポヤンマタケ
Cordyceps odonatae Y. Kobayasi

発生地:茨城県笠間町七会
採集年月日:Oct.6,2005

トンボ目Odonata、トンボ科Libel luridae、またはヤン マ科Aeschnidaeの成虫に寄生する完全世代型の虫草菌である。

自然界の昆虫に寄生する菌類は普通、完全世代型であるテレオモルフ(有性生殖型)の子嚢菌類Cordycepsが 主流をなしている。これは麦角菌Claviceps purpureaと同じ子嚢菌類であり、子嚢殻peritheciumに内包する 子嚢ascisを有しているのが特徴である。子嚢が分裂して子嚢胞子ascosporeを空中に飛散させ世代を繰り返している。

自然界では、トンボに寄生する虫草菌は不完全世代型のアナモルフ(無性生殖型)が一般的で、イザリア型Isaria typeとして発生し、分生胞子conidio-sporeの形で世代を繰り返すのが一般的である。発見当初、ヤンマ科のトンボに寄生した虫草菌であった ためヤンマタケ(不稔型)と命名された。

本菌はトンボの胸部から数本のタンポ状子実体stromaを発生させ、頂部に白色のハスのつぼみ状結実部をつくり、白色菌糸体で包まれた半埋生か埋生の 子嚢殻を形成させる。柄の部分は淡橙白色でやや硬い肉質、長さ2.0〜2.5mm、太さ0.8〜1.0mm、頂部の結実部の大きさは1.5〜2.0mmで あった。

子嚢殻は細口瓶形、または長楕円形、色は淡黄褐色、大きさ100-115×30-35μ。子嚢の径は8μ、頭部は亀頭型10×7μ。2次胞子は長方形 5×1μで隔壁が見られる。

尾部の結節部よりHymenostilbe不稔型の子実体を発生させる。柄の大きさ2.5〜6.0mm。硬い肉質で淡橙白色、分生胞子の大きさ 0.5×1.0μ。 N.M.I.による人工培養成功。

〔追記〕ヤンマタケHymenostilbe odonatae Kobayasiは無性生殖型で、本菌は同じ場所で採取された真性の有性生殖型の完全世代型虫草菌である。菌蕈学の泰斗、故小林義雄先生はニューギニアの 西イリアンで発見し、Bull. Natn. Sci. Mus.7(1):6(1981)に発表している。

日本では本菌に子嚢殻perithecium、子嚢ascusが顕微鏡観察で確認され、今回が初めての発見となった。

感染症 VOL.36 No.2より

N.M.I.
聞く